clap3’s blog

哲学的実践の記録。きみの鞄は未だ重いのかい?

ヴィオロン

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阿佐ヶ谷駅から少し歩いたところで出会いました。まさに運命的です。


昨日のことですが、愛知から友人が訪ねてきて、我々の常としてそこここを彷徨しました。
大学時代から私は二人の学部の友人と親しくしていて、きまって我々は語らい、あてもなく歩いていました。
そうして、偶然見つけたのです。


ドアを開けるとまず中央に一段低くなったフロアが目に入ります。建物の一番奥はさらに低く、巨大なスピーカーユニットがひっそりと聳えています。巨軀に反して、威圧感はありません。奏でる音も朴訥として柔らかいものです。
シートは中央とその周囲に設えられています。
入り口から見て右側にはアップライトのピアノが、反対側はキッチンになっています。そちら側の壁には棚が作りつけられ、夥しい量の真空管が整列しています。棚と低くなったフロアの間にはこれもまた膨大な量のレコードがありました。
初めてですが、名曲喫茶というやつらしいです。
我々はスピーカーの真ん前の席に落ち着きました。

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内部は完全に異界の空気を湛えています。教会や神殿のような荘厳さと、秘密の地下室めいたひそやかな親密さと、主人の人柄によるのでしょう、温和さを含み、悠久の時間の影も差しています。

カーテンの向こうに元来た世界がまだ広がっていることが俄かに信じ難い気分になります。

私はコーヒーを、友人はストレートの紅茶をオーダーし、きちんとした格好の主人——あまり詳細に見ませんでしたが、モーニングかタキシード姿でした——はどちらにもブランデーを少し垂らしてくれました。コーヒーにもブランデーを合わせるのがここの流儀のようです(ミルクと選べます)。一杯僅か350円という価格も凄いです。

飲み物を運んできた主人は何かリクエストがあったら仰って下さいと言い、私は「このスピーカーで夜の女王のアリアを流したらどんな風になるんでしょう」と遠慮がちに申し入れました。私は写真を撮ってもよいかとも尋ね、主人は快く応じてくれました。
それまで掛かっていたレコードが終わるのを待って、主人は「魔笛」を夜の女王のアリアのところから回してくれました。

元々のレコーディングがそうなのか、実に優しく、ソプラノも迫り来る、突きつけるというより包み込むような響きでした。

その日の我々には時間の制約があったため、アリアが終わって歌曲が続く中早々に席を立たねばなりませんでしたが、素晴らしい時間でした。

帰り際に伺ったところによると、真空管アンプは現在のもので4代目ということでした。
夜には生演奏が催されることもあるようです。

帰ってから調べてみたところ、オーディオは全て主人の自作ということでした。